多くの人は、歯並びに問題がある場合、食べ物を噛みやすいように「無意識のうちに」顎をずらして、噛みやすい箇所で噛んでいます。ご本人には顎がズレている認識はありません。
一般的な矯正治療では「普段 奥歯を咬み合わせる顎の位置」を基準に診断して歯並びを治します。しかし「普段の顎の位置がズレている」としたら?
「顎はズレたまま」「歯並びはキレイ」となります。
顎のズレは、顎関節症(顎の痛み・筋肉の痛み・お口が開けづらい等)や頭痛・肩こりなどに影響する場合があります。
この状態は本当に健康的な咬み合わせといえるでしょうか。
当院では、ロナルド・ロス先生と池田和己先生のロス・フィロソフイー(矯正治療の考え方)に従い、「咬み合わせ」を「歯並び」だけでなく「顎関節」も含めて考えます。「正しい顎関節の位置を中心として、顎が開閉する運動の軌道上で自然に歯が咬み合うこと」を矯正治療の目標とします。
それは歯並びの「見た目だけ」ではなく、顎の関節や筋肉を含めた「健康」と「長期的な咬み合わせの安定」に繋がるからです。
当院では一般的な矯正治療の検査に加えて、「顎関節と咬み合わせの精密検査」を行います。それにより「普段咬み合わせる顎の位置がズレていないか」の診査をします。
診断の結果、顎関節の形や位置に問題がない場合は、治療方針を作成し矯正治療を行っていきます。顎関節の位置がズレていたり、顎関節症を認める場合は、顎関節の治療から始めます。
顎の位置を正しくするために「スプリント」という装置を使用します。
ロス・フィロソフィーの治療では、通常の再検査に加えて、アキシパス(顎関節の動きの診査)を行います。アキシパスの記録を基にスプリットモデル(診断用模型)を作製し、矯正治療での歯の移動量や横顔の変化の予測を正確に行います。
矯正治療を良好な結果で終わらせるためには、正確な診断(=治療ゴールの設定)が不可欠です。
診断で設定した治療ゴール通りの治療結果にするためには、「診断時の顎の位置」と「治療後の顎の位置」が同じでなければなりません。治療前に顎の位置がズレている場合は、治療中に顎の位置が変化するため、治療前に計画した歯の移動量では咬み合わせがキレイになりません。
ロス・フィロソフィーでは、スプリント療法によって顎を正しい位置に安定させた後に治療ゴールの設定を行いますので、治療中に顎の位置変化はなく、診断時の歯の移動量は、正確に治療後の結果に反映されます。
ロス・フィロソフィーに基づく治療ゴールの設定は、一般的な矯正治療の設定と異なります。顎の関節が生理的に安定した位置で上下の歯が緊密に咬み合い、口唇は筋肉が緊張することなく閉じており、歯茎を含めて健康な状態が長期的に維持されることを目標とします。口唇が後に下がり過ぎず、顎先のラインがキレイになるよう奥歯と前歯の位置決めを行います。
診断で設定した治療ゴールの歯の位置や口元のシルエットの変化は、2D/3Dシミュレーションでご確認頂きます。視覚的に治療後の結果予測を確認し、ご自身の治療後のイメージと相違がないことが重要です。
ロス・フィロソフィーの治療は、顎の関節の正しい位置で咬み合わせを緊密に構築することを目標にしており、一般的な矯正治療とは、治療方針の作成までにかける工程や、治療終了に至るまでの工程に違いがあります。顎の位置を正しくすることや、緊密な咬み合わせを作ることは、長期的な歯・顎関節・筋肉の健康の維持、ならびに歯の後戻りの予防につながります。