歯をピッタリと覆う薄く透明なアクリル樹脂製の矯正装置です。「アライナー」と呼びます。ワイヤー型の装置は歯に貼り付けて固定しますので、治療終了まで外せません。それに対してアライナーは、ご自身で取り外せることが大きな特徴であり、患者さんにとって最大のメリットです。
従来の装置は、1つのアライナーを製作する毎に歯型を取り、技工士が模型の歯を切り出して目分量で移動したものを作製していました。インビザラインなどデジタル設計の装置では、3Dスキャナーで歯型をスキャンし、コンピューター上で歯の移動を設計します。粘土の歯型はわずかに変形や歪みが生じますが、デジタルスキャナーは変形や歪みが生じません。1つのアライナー(1ステージ)につき、コンピューターのデータ上で正確に0.25mmずつ歯を移動させていきます。移動量が正確で小さいため、従来の装置に比べて歯の移動精度が向上しています。
従来の装置では1つのアライナーにつき2回来院する(①歯型取り ②装置のお渡し)必要がありました。デジタル設計のマウスピース型矯正装置では、初回のスキャンで全ステージ(最大99ステージまで)のアライナーが作製されます。患者さんには番号順にアライナーがパッケージされた状態でお渡しできます。
従来の装置のように何度も装置を取りに来院する必要がなく、アライナーの交換間隔(7〜14日間)を担当医が指示致しますので、ご自宅で次のステージのものに交換して頂き、治療が進みます。通院回数が少なく、また次の装置を作るための時間がかからないため、従来では適用外であったアライナーのステージ数が多い症例に対しても適用できるようになりました。
「クリンチェック」とは、アニメーションのコマ送りの要領で、治療開始時〜すべての治療過程〜治療後までの歯並びを、コンピューターの3Dモデルで作製したものです。
アライナーでの矯正は、通常2ヶ月ごとに診察が必要です。診察時には、アライナーのフィッティングの状態と、実際の歯とクリンチェックの歯の位置の誤差を確認します。誤差の大きさによって、その時点で必要な処置を行います。 クリンチェックは登山におけるルートと同じです。ルートから外れていかないように診察での確認が不可欠です。
アライナーはワイヤーと比較して、有利な歯の移動方向と不利な移動方向、移動距離の大きさがあります。そのため症例によってはアライナーの方が適している場合もあり、また逆に不適な場合もあります。
適否の診断には、矯正治療の専門的な知識と、多くのアライナーでの治療経験が必要です。当院では、検査により歯の移動方向と移動距離を決定し、適否を診断致します。また当院では小児期の矯正治療や、抜歯を伴う矯正治療においても使用することができます。
マウスピース型の矯正装置は、設計や製作のデジタル化以降、精度も向上し急速に普及しています。しかし、手軽に矯正治療ができるイメージがある一方で、いくつかの問題もあることをご承知ください。
マウスピース型矯正装置の設計は、AIによるものでも、製品会社がするものでもありません。それぞれの担当歯科医師が設計を行います。同じインビザラインの製品であっても、歯科医院が異なれば、全く違う設計や治療結果になります。
まず、担当歯科医師が矯正治療についての専門的な知識や技術を有し、診断学に基づき治療方針を立案できなければなりません。歯科医師が矯正治療の専門的なトレーニング経験を有していることが重要です。(日本矯正歯科学会の「認定医」や「臨床指導医」などを参考にされても良いと思います。)
抜歯が必要なのかどうか、歯ぐきの骨のどこに歯を移動するのか、口元の変化はどうなるのか、それらの結果は患者さんの希望通りか、適切なプランニングが不可欠です。
その診断を基に、装置の設計を行います。最終的な歯並びや咬み合わせはもちろん、そこに至るまでの過程においても、歯に接着するアタッチメントのデザイン、顎間ゴムの設定、歯を移動する順番など、設計は多岐にわたります。アライナーの設計を行うには、診断学に加えてさらに専門的な知識と技術を必要とします。
「口元が突出した」「歯ぐきが下がった」「咬み合わせが治らない」などの事例は、上述のいずれかに問題があると考えられます。
一見、アライナーの治療は楽なようなイメージを持ってしまいます。しかし、決してすべての方にとって楽な治療ではないことをご承知ください。
ワイヤー型の治療では、医院へ装置の調整に来れば、歯の移動が進みます。一方でアライナーの治療は、ご自身で装着しなければ歯の移動は進まず、毎日20時間以上装着することを必要とします。ご自身を律して管理しなければなりませんので、性格やライフスタイルにマッチしているか、慎重にご検討ください。
クリンチェックでは、矯正治療のスタートからゴールまでのステージ数(=アライナーの数)が明示されます。仮に40ステージの場合、7日間ごとに次のステージへ交換すると、治療期間は単純計算で40×7=280日(9ヶ月半)となります。
しかし、アライナーの精度が向上していると言っても、シミュレーションと実際の歯の位置が全く違わないということはありえず、治療の過程で歯の位置を修正するためにアライナーの再設計・再製作を3〜5回ほどする必要があります。 再設計の度にステージ数は増えますが、最初に再設計の回数とその増加分を予測することはできません。したがって、治療終了までの総ステージ数(治療期間)は予測が困難なことをご承知ください。
さらに、患者さんのアライナーの使用状況や通院頻度によっても治療期間は影響を受けますので、ワイヤーの治療に比べて治療期間の予測は困難といえます。
歯科医院によっては、アライナーの個数単位で治療費を契約する場合もあり、初期費用が少なく見積もられますが、総個数と総治療費の予測が困難ですので注意が必要です。(当院では、全体矯正の場合、契約期間内であればアライナーの追加の装置費用はかかりません。)
当院のwebサイトでは、厚生労働省の「医療広告ガイドライン」に従い、治療例を掲載しておりません。初診相談にて、矯正装置や症状ごとの治療例をご覧頂いております。
インビザラインなどのマウスピース型矯正装置は、治療を行う医院の歯科医師が設計をします。同じ患者さんであっても、歯科医師によって診断(治療ゴールの設定)が異なりますので、装置の設計も、治療結果も異なります。設計を行う歯科医師には、マウスピース型矯正装置での治療経験の豊富さ以前に、矯正治療の診断を行う専門的な知識と経験が不可欠です。
また、近年は様々な類似製品があります。見た目は同じですが、企業が開発に費やしてきた年数や研究費は大きく異なり、特許の量も異なります。これは治療結果にも関わることです。電化製品などを購入することとは全く異なりますので、注意が必要です。
単に料金の安い医院が良いとは言えない理由がここにあります。特に、抜歯を必要とする治療などの難症例は、マウスピース型矯正装置の知識と多くの矯正治療の経験がなければ困難です。矯正専門歯科医院での治療をお勧め致します。
マウスピース型矯正装置は、治療ゴールまでのアライナーが最初に全て製作されるので、患者さんが使用方法や使用時間を守りさえすれば、通院は必要ないのでしょうか?治療途中にスマートフォンで歯の写真を撮り、クリニックへ送信すればチェックは問題ないのでしょうか?
当院ではそのように考えておりません。マウスピース型矯正装置は、どんなに厳格に装着方法を守ったとしても、実際の歯の位置がシミュレーションと寸分も違わないという訳にはいかないからです。また0.5mm単位の精度で歯をキレイに並べることや、上下の歯が緊密に咬み合うことを治療のゴールとすれば、遠目から撮影したスマートフォンの写真ではとても判断ができないからです。
マウスピース型矯正装置で治療を成功させるためには、診療台で患者さんのアライナーのフィッティングの状態(シミュレーションとズレが生じるとわずかに浮きが生じる)と上下の歯の咬み合わせのズレをいち早く確認し、それを補正するための適切な処置を加えなければなりません。場合によっては、その時点の歯並びを再度スキャンし、装置を全て作り直す必要もあります。よって当院では通常2ヶ月ごとの来院を必要とし、治療終了までに3〜5回は装置を全て作り直すことを前提としています(原則的に契約期間内であれば追加の装置費用はかかりません)。
マウスピース型矯正装置は多くのメリットもありますが、決して簡単で楽な治療ではないことを十分にご理解ください。