従来の歯型を取るアナログな方法は、粘土のような材料を歯に押し当てて歯の形を印記します。取った歯型に石膏を流し入れ、乾燥して固まると歯型の模型ができます。それを使用して診断や矯正装置の製作を行います。
歯型を印記する粘土は、わずかに歪みや変形が生じ、石膏もわずかに膨張するため、実際の歯と微細な誤差があります。その「誤差を限りなく小さくする方法」がデジタルスキャンです。デジタルデータの歯型は、歪みや変形がなく、精度が高いことが利点です。
またデジタルレントゲンは、従来のフィルム型のレントゲンに比べて被ばく量が少なく、またCTも照射野を小さくできるため人体への影響が少ないことが利点です。
デジタルレントゲンや3Dスキャナーで記録したデジタルデータと、高度に開発されたソフトウェアにより、PC上で歯を動かして矯正装置を設計することができます。
マウスピース型の矯正装置は、従来は石膏の模型から歯を1本ずつ切り出し、歯を移動させて製作していましたが、歯の移動量も技工士の経験によるところが影響します。デジタルの設計では、1つのアライナーで移動量を正確に0.25mmに設定でき、模型の変形もないことから装置の精度が格段に向上しています。
ワイヤー型の矯正装置の治療においても、咬み合わせの最終調整には、それぞれの歯に合わせてワイヤーを曲げて調整しなければならなかったのですが、PC上でワイヤーを設計できるようになりました。
レントゲンのデジタルデータを、顔写真や歯のデジタルデータと融合させることで、診断の予知性が向上し、より治療後の現実に近いシミュレーションを確認することができます。
現在のデジタル検査機器やソフトウェア、それらを基にしたデジタル設計の矯正装置は、矯正治療の長い歴史から見れば、まだ始まったばかりといえます。テクノロジーは日進月歩です、従来の方法のみにとらわれずに常にアップデートをする必要があります。ただし、デジタルだから以前より精度の高い治療ができるとも限りません。
データに誤差はありませんが、データ上で歯の位置を設計するのは人間です。 設計を誤ると良い結果にはなりません。また、どのデジタル製品についても、製品を製造する行程で、わずかにデータとの誤差が生じています。
やみくもにデジタル製品を信奉するのではなく、デジタルの利点を効果的に取り入れ、実際に患者さんの治療結果や治療効率の向上に繋げることが大切です。